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Exhibition Archives 2013

金子 泰久 展   

2013年1月21日-1月26日

Kaneko Yasuhisa works
Artist Statement

 
右を見ても左を見ても水平線の他は何も見えない。足元は砂。見上げると黒い空が広がり
真ん中に白い小さな点が輝く。雲は無い。正面の水平線が画面を上下に二分割している。
夜が明けるまでに墓を掘らなければならない。道具は全て揃っているが何処を掘るべきか
何も決めないまま、ただぼんやりと歩いている。砂地はこの先も終わる気配がない。
さらさらと靴の上を砂が流れていく。立ち止まると砂が靴の上を覆いはじめやがてそのま
ま足が砂に埋まりはじめる。細かい砂の粒が隙間から靴の中に侵入してくるのがわかる。
埋まるのを避けるためには歩く事をやめるわけにはいかない。ひたすら歩みを続ける。
あとどのくらいの時間で太陽が出てくるのか。今の気温はかなり低い。歩いているせい
かうっすら汗ばんではいるが吐く息は白い。太陽が出てくれば気温は急激に上がるはず
である。それまでに場所を決め、墓を掘り終えねばならない。灼熱のもと作業をする事
はおおよそ無理であろう。時間が無い。場所も無い。歩きを止める事も出来ない。黒い
空の白い小さな点がやがて灰色の雲に覆われる。視界が悪くなる。せめてどの方向に向
かっているのか、それだけでも分かれば希望が持てるのだが東西南北さえも不明である。
真っ直ぐ歩いているのか、やや弓なりに同じところを大きく転回しているだけなのか、
それすらも定かではない。砂に足を取られ、体の重心がままならないことを考えると転
回している可能性は大きい。視界も悪い。砂の流れがさっきよりも速くなっている。踝
まで砂が覆い被さり歩行が困難になり始める。よろよろと歩く。恐らく転回しているの
であろう。大きく弓なりに同じところをぐるぐると回っている感覚がある。前は真っ直
ぐか。右は右なのか。左は左なのか。後ろは後ろなのか。考えていると気分が悪くなる。
それよりも立ち止まる事さえ出来ないところに穴を掘る事は可能なのか。砂地に墓をつ
くる事は出来るのか。掘っても掘ってもさらさらと埋まっていくのではないのか。
『彼の妻の夢を見た。』
『それからブラジル人の女の夢を見た。』
『女が夢の中で話した。お前はブラジル人の男といるだろう。』
『おまえはその男といるだろう。』
『わたしに構わず、大きいブラジル人の女は消えた。』
『次にわたしは、パパイヤとバナナの夢を見た。』
 砂の流れはますます速くなる。踝を越え下腿から膝のところまで砂が上ってきている。
歩く速度を上げるか、空と飛ぶかをしないかぎりこのままではやがて埋まってしまうであ
ろう。空は飛べない。歩く事しか出来ない。果たして真っ直ぐ歩いているのか。回ってい
るのか。雲に厚みが出てくる。白い小さな点の輝きがさらに小さくなっていく。見ず知ら
ずのブラジル人の男と話した夢の話が脳裏に浮かぶ。真っ黒の肌に時折浮かぶ歯の白さが
美しい。白目の上に浮かぶ真っ黒な瞳が美しい。ぬるりとした唇が夢を語る、そのさまが
忘れられない。音も無く動く唇に恐怖を覚える。戦慄が走る。くるくると同じところを回
転しながら巨大な唇に話しかけられる。砂の動きが限界を超える。砂は膝を超え大腿に達
する。
 右を見ても左を見ても水平線の他は何も見えない。眼下は砂。見上げると黒い空が広が
り真ん中に白い小さな点が輝く。夜が明けるまでに墓を掘らなければならない。このまま
砂に埋まるのか。大きいブラジル人の女の唇が見える。夜が明けるまでに墓を掘らなけれ
ばならない。

 

Artist Profile
千葉県生まれ
金村修ワークショップ参加
Solo Exhibitions
2011 「グレイマン・フィッシュ」GLLAERY mestalla、東京
2012 ギャラリーQ、東京
2013 ギャラリーQ、東京
Group Exhibitions
2011-02 「Public Image 1」神奈川県民ホール、横浜
2011-08 「Public Image 2」アートフォーラムあざみ野、横浜
2011-08 「Public Image 3」アートフォーラムあざみ野、横浜
2011-11 「Public Image 4」アートフォーラムあざみ野、横浜
2011-12 「Public Image 5」アートフォーラムあざみ野、横浜
Slide shows
2011-05 「antidrawing 1」横浜美術館レクチャーホール、横浜
2011-08 「antidrawing 2」横浜美術館レクチャーホール、横浜