私は予期せず生まれる形や歪みを魅力的に思い作品にしている。
その為には、あらかじめ設定した決まりを守って線を描いていくうえで、
そこから偶然外れてしまうところが必要となる。恣意的な決定を発端と
して絵の具の溜まりでできる質感、線の歪み、支持体の質感による絵の
具の掠れなどの偶然性を介入させ、恣意的なものの中にあるこの限られ
た偶然性を際立たせている。

そして色について。たくさんの色が隣りあうことで色と色が混ざりあっ
て見え、在る色・混ざりあってないのにみえる色によって在る色以上の
数の色がみえる。「lines in lines」では反対のグラデーション同士が真
ん中で色が繋がることで外側と内側の境界が一瞬崩れる。
その崩壊を繰り返すことで外と内の形態が曖昧になり複雑になる。
線でできた形がたくさん積み重なることで、違う色同士の重なりや同じ
色同士の色合いなどたくさんの色の関係性を試すことができる。

最後に空間について。私の作品では描くことでできた形と形が関わること
によって絵画独自の空間をつくっている。「lines in lines」では線でつく
られた形が織り重なっているが、絵画内に重畳遠近法的に内あるものから
外にあるものが遠ざかっていく空間と線遠近法的に外から内にいくことで
遠ざかっていくようにみえる空間が共存し、二つの遠近法によって空間が
複雑になっている。このようにこの「lines in lines」という作品は絵画を
構成する色・形・空間の3つの単純な要素を研究した作品となった。

（東 菜々美）